子供の頃と言えば、ゲームソフトなんて、そう毎回買ってもらえる物ではなかった。
買ってもらえるとしても中古の安い物が主であり
新作の高いゲームは誕生日かクリスマスにしか買ってもらえない。
なので一本のゲームを買ってもらったら
それがどんなにクソゲーでも大切に何回もプレイしたものである。
でも、私だってたまには新作の面白いゲームをやってみたいのである。
勿論、毎回買ってもらえないので、他のゲームをやる為には
買う以外の方法を考えなければいけない。
それはすなわち、友達同士でゲームを貸しっこすると言う事だ。
これは私の周りだけではなく
あの当時、お金のないちびっ子達にとっては常套手段だったと言えよう。
(現代っ子もやっているとは思うけど……)
でも欲しいソフトって、どうしても自分で所有したくなるよね?
友達が持っていて、自分が持っていないのならなお更の事だし
誰しもそう言うジェラシーを感じたことがあると思う。
かく言う私もそうだった。
友達が持っていた『迷宮島』が欲しくて欲しくて
何度親に買ってくれとせがんだことか……。
その度に返ってくる答えは、
「がまんしなさい」
の一言だけ。
そんなわけだから友達にこのソフトを借りて我慢してたんだけど
ある時、そのソフトの持ち主である友人のH君が、
「迷宮島、そんなに好きならなんかのソフトと交換してあげようか?」
などと言ったから、つい、
「ホント?じゃぁ僕の持っている、桃太郎と交換しようか!」
と私は答えたのである。
H君は当時の私と違って
どちらかと言えばRPGをプレイしたがる人物だったので、この交渉は即座に成立となった。
ファミコンと同時に買った『桃太郎伝説』。
買ってから、それほどプレイしていなかった私は
特に思い入れがあるわけでもなかったので、すんなりと手放してしまったのだ。
今までソフトを貸し借りすることはあっても、交換と言うことはやったことが無かった。
勿論、この事は親にも内緒のトップシークレット。
バレたら叱られる事は目に見えていたからだ。
迷宮島を手に入れ、ホクホク顔な私。
親にばれないよう影でプレイするのはお約束である。
途中何度か親にプレイしているところを見られはしたが
友達から借りていると言っては、その場をごまかしていたっけ。
そんなことを繰り返していたのだが、ある時、急に迷宮島への熱が冷めた。
同時に桃太郎伝説を手放したことを後悔するのである。
やらないからと言って手放した桃太郎伝説であったが
時が経つにつれこのソフトがいかに自分にとって
大切な物かということが分かったからである。
ファミコンと同時に買ったソフトでもあり
一番最初に苦労して手に入れたソフトなのだ。
思い入れが無いわけが無いじゃないか!
カセットの表紙の桃太郎達が、走馬灯のように脳裏をよぎる。
――よし。返して貰おう。
そう決断すると、Hくんの家へと自転車をとばす。
「えっ?交換はやめる?でもな……。じゃぁ
「何枚分?」
「東京牛乳100枚分ぐらいでいいよ」
「100枚分か……」
「それなら、桃太郎は返すし迷宮島もあげるよ」
牛乳キャップとゲームを交換なんてまるで嘘みたいな話だが
当時、私のいた学校では、ファミコン以上に盛り上がっていた事にキャップ集めがあった。
しかもただ集めるだけではない。
集めたキャップを持ち合い、それで勝負をするバトルがあったのだ。
今ここで言っている東京牛乳100枚分とは
東京牛乳のキャップを1の価値とした場合、それを100枚用意するか
東京牛乳100枚分の価値のあるキャップを用意することにある。
東京牛乳は、学校でも出されている牛乳なので、必ず1日に1枚は手に入る。
なので、この東京牛乳が基準値なのである。
詳しい事については、また別の話題で触れることにするが
ともかく、牛乳キャップとゲームの交換……。
それは私たちにとっては何ら不思議な事ではないのだ。
↑
(東京牛乳のキャップ。
同じ東京牛乳でも、度数がちがかったりで、また価値が変わる)
「100枚分か〜!」
ちなみに当時の私たちは
いつでもキャップバトルができるように、何枚かは必ず持ち歩いていたのである。
私の場合も量産キャップである東京牛乳を20枚ぐらいと
他に1つで10枚分ぐらいの価値があるものを数枚、そして、これは使うことはないが
100枚分の価値のあるキャップ1枚を常日頃から常備している。
しかも、この日に限っては、学校でかなりな戦果をあげていた為
合計すると東京牛乳300枚分ぐらいは持っていたのだ。
「よし。じゃぁ、それでいこう!」
「おっけ。交渉成立」
こうして、牛乳キャップと、ファミコンのトレードは終了した。
桃太郎伝説を取戻し、ホクホク顔な私であったが
だからと言ってこのゲームをやるかと言えばそうでもない。
いつも通りに箱の奥のほうにしまっておくだけだ。
ただ、手元にあればいい。
そんな、いるだけで安心するソフト。
それがこの『桃太郎伝説』の位置づけである。
ゲームの内容なんかどうだっていいんだ。
そんなソフトだって1つぐらいあったていいですよね。
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